生きる力と自然

#5

大谷 泰直さん

猟人

今回の取材先は、鹿の狩猟をされている大谷 泰直さん。
早朝、いつもの取材先とは少し離れた伊豆高原へと車を走らせる。

「おはよう。」と家から出てきたのは細身でバブアーがとても似合う男性。わたしが抱いていた猟師さんのイメージとは違うその姿に驚きつつ、一緒に山へと向かう。

大谷さんの狩猟方法は罠猟。銃は使わずに罠にかかる鹿を獲る。

この日、仕掛けた数ヶ所に鹿はかかっていなかったため、後日また取材へ訪れる。

大谷さんは2016年に仕事の都合で伊豆高原へ引っ越してきた。

「住むところはどこでも良かったし、田舎暮らしをしたいというわけでもなかった。でも住んでみたらすごく心地いい。環境も良いし、人も良いし、住みやすい。」

この土地を気に入った大谷さんは家を探し、現在はリノベ住宅で暮らす。

DIYしたもの、人から譲り受けたもの、森で出会ったものなどセンスある家具達が並ぶ素敵なお宅だ。

2020年12月には隣接してカフェがオープンした。

もともとコーヒーの味に惹きつけられ通っていたカフェとのご縁で、場所をお貸しすることになったそうだ。

こちらのカフェでは鹿肉を使ったメニューも提供している。鹿肉のカレーやアヒージョ。

ジビエと聞くと臭みがあるのではと心配したが、実際に食べてみると全く臭みがなく驚いた。

本当に美味しい。

大谷さんが狩猟を始めたのは3年ほど前から。

「もともと父親が学生の時に病死したことをきっかけに医療に興味を持ち、医療機器メーカーに就職した。そこで西洋医学の限界を感じ、予防医療を勉強する中で、栄養学に出会った。畜産工場への疑問から、ミネラル豊富で毒されていないジビエに興味があった。」

伊豆高原に引っ越してきてから、環境保全のために狩猟をされているご夫妻と出会い、ご夫妻が立ち上げられたグループに所属している。

「こっちのお父さんとお母さんのよう。2人のことが好きでやっているのもある。」と話す。

「最初は自分で動物を殺すことに抵抗があって、できるかなと思った。躊躇があったし、もちろん今もある。でも慣れる。」
なるべく恐怖や痛みが少ないようあっという間に解体へと進む。

鹿と向き合う時の森の静けさ。

互いの覚悟。

シャッターを押す手が汗で滲んだ。

害獣駆除として国から1年で何頭駆除しなさいという指令のもと、大谷さん達のグループがこのエリアの駆除を進める。狩猟の現状として、駆除された鹿の8〜9割がそのまま捨てられるそうだ。「駆除をして国からもらえるお金をもらって終わりがほとんど。命が捨てられるという現状に疑問を抱いた。」

駆除しないといけない現状の中、大谷さん達はせめて資源化できないかと料亭に卸したり、ソーセージの開発、皮を作家さんへ提供するなど様々な方法でいただいた命を活かしている。

「捨てるという現状を減らすためにも狩猟者の中で解体できる人が増えたらいいなと感じるし、増やしたいなとも思う。でも興味を持ってくれた若い人を山へ連れて行ってもライフスタイル的に続けられる人は少ない。」

大谷さんは毎朝6時には家を出発して、罠にかかった鹿の解体後、着替えて出社をする。「罠猟は、罠を仕掛けると毎日見回りに行く必要がある。それを負担に思う人もいるが、習慣化してしまえば大変ではない。」と話す。グループの中でも最年少の大谷さん。解体できる人を増やしていくことも課題の一つとなっているそうだ。

「狩猟をやっているうちに自分で解体した肉を得て、それを消費して食べるということで気持ちにゆとりのような自信のような独特な感覚がある。どこでも生きていける自信。こうして狩猟に興味を持って来てくれる人との出会いもある。それが続けられる理由かな。」

大谷さんと森に入ることで初めて知る森の現状も見えてきた。なぜ害獣駆除をするのか、自然を守ることと自分達が住み良く生きていることへの矛盾。

「害獣駆除と言っても理解を得られないこともある。」

わたしも記事にする上で、いつも以上に言葉を選ぶ必要性を強く感じた。賛否両論、難しい問題だ。生きるために自然を守る、そのために害獣とされる動物を駆除する。どうしても「双方生きる道はないのか」と頭の中で、もののけ姫のアシタカの台詞が聞こえてくる。

まだまだ3日間取材に行ったくらいじゃダメだと思った。足りない。自分が意見するには浅すぎる。

自然、人間、動物達、それぞれの命と向き合うことは軽いものではない。自分含め、この記事で少しでも興味を持ってもらうこと、理解を深めてもらうことが微力ながら今の時点でわたし達ができることだろう。

駆除しないといけない現状の中で、大谷さん達が選んだ「命を活かす」ということ、森林被害や処分される現状に立ち向かう日々はこれからも続いていく。

photo & text :宮﨑 美咲