創造と共鳴
高梨 哲宏さん
ラーメン屋
今回は、今年8月に4周年を迎えた「ラーメンやんぐ」の店主、高梨哲宏さん(通称テツさん)の元を訪れた。
営業終了間際に伺ったが、まだまだ満席の人気店だ。
「こってりも、さっぱりもあって、とりあえず ”やんぐ” に来た時のどんな気分でも食べられるメニューを並べている。テレビ取材があってからはレモンラーメンがすごく人気になった。」
わたし自身もレモンラーメンがとても好きだ。本当に美味しい。
常連さん達もそれぞれお気に入りのメニューもあれば、その日の気分や各自のブームなどで注文を変えて楽しんでいる。
「もともとラーメン屋さんをやりたいという思いはなくて、子どもの頃からいつか自分のお店をやりたいとは思っていた。」
バンドマンだったテツさんはバンド解散後、兄の営む “ラーメンろたす” に勤め、ラーメン作りのスキルを身につけた。
お店をやりたいという想いと自分の持つスキルが合わさってスタートしたのが “ラーメンやんぐ” だった。
ラーメンやんぐは、内装が他のラーメン屋さんのようなかっこいい雰囲気ではない。どちらかというとカフェのような、ついつい店内をぐるっと見回してしまう素敵な空間だ。
「ラーメン屋さんっぽくない。カフェっぽいってよく言われるのはその通りで、カフェの内装を参考にしているから。」
カフェの文化を好きになり、バンドマン時代、全国各地のカフェを訪れていたテツさんは、ときめくカフェ達の内装をお店づくりの参考にした。
テツさんが出会った “好き” が重なり合って、ラーメンを食べる前からすでに心ときめく場所となった。
やんぐの魅力はラーメンだけではない。
グッズも男女問わず人気で店頭販売だけでなくオンライン販売もしており、全国各地から注文が届く。
バンドをやっていた時からグッズ作りはやっていたそう。ラーメンやんぐとしては、オープン資金準備のためにTシャツを販売したのが始まりだそうだ。
お店のグッズ感すぎず、日常の中で使いたくなる可愛いアイテム達が並ぶ。
また、店舗入り口左側ではギャラリースペースとして様々な方が展示を行ってきた。
「ラーメン屋は、半分公共の場みたいな感じ。老若男女来るし、気負わず、アートに興味のない人にも、ふらっと見てもらえる場所を作りたかった。ラーメン屋なら繋がらなかったはずの人とも繋がれるから。」というテツさん。
ギャラリーでの展示だと、それを目的に来た人の目にしか触れることが出来ないが、やんぐなら本当にたくさんの人の目に触れる。新たな出会いがやんぐで生まれる。
そして個々の力が強いスタッフがいるのもやんぐの魅力だろう。
最初は一人でお店をやろうとしていたテツさん。
「妥協したものを出したくないっていう気持ちから他の人に触ってほしくないと思ってしまった。自分も社会人をやってみて、人の会社に対して本気になれなかったし。うちで働くスタッフもそうじゃないかと思ってしまって、それは嫌だし一人でやるしかないわ〜、、、って。」
しかし今となっては、 “スープカレーよつば” 、 “喫茶やんぐ” 、 “古着のHER” 。やんぐのスタッフとして働きながらも、それぞれの持ち場で輝き、率先してお店のために動き、活躍しているスタッフ達がいる。
「スタッフの活躍に驚き、奇跡だなと思っている。何年後かに、 ”あの頃は黄金期だったな〜” ってならないようにしないとって思うくらい本当に恵まれている。奇跡的に出会えて一緒にやれている。このメンバーで小さいまま、大きくなれたら。」
営業のやり方も変えつつ、どんどんと進化をしてきたやんぐ。まだまだ止まる気配のないテツさんに対して “今後の展望は?” と問うわたしに、
「夢として店舗に対する展望はあるけど、運営のスタイルとしてあんまり先のことは決めずに、目の前のことをその都度その都度、素直にやっていきたい。」と話すテツさん。
「誰かが喜ぶとか、こうすれば儲かるとか、だいたい答えが見えたりするものに思考停止せずに、素直に一つ一つやってみて、それが育っていくのを短期的にみてやっていきたい。そうすると繋がっていく。目標に向かって進むのではなくて、いろんなところへ行けるようにした方が、自分が想像しない面白い方へ行けるような気がする。」
「あとはスタッフに楽しんでもらう。自分にはできないことをやってくれるから。」
いろんな人の魅力が共鳴し合う場所が “ラーメンやんぐ” だと思った。
最初の音を鳴らすのはテツさんで、関わる周りの人達もそれを受けてそれぞれの音を鳴らし、互いに響き合う。
そうやってこれからもたくさんの人や場所と出会いながら進むのだろう。
次なる可能性を拾い集めながら、まだ見ぬ世界へ。