春が来るまで
奈木 理恵子さん
ふぐ屋
今回の取材先、「ふぐの三四郎」さんを営む奈木理恵子さん。
祖父の代から続く”三四郎”さんは今年で61周年を迎え、現在は理恵子さんとお母さんの二人で営んでいる。
天然のフグを取り扱う三四郎さんは、10月〜3月の間だけ営業をする。
「春は産卵のため禁漁になり、産卵後は疲れていて味が落ちるため冬にしか漁に出ない。冬が一番美味しい。」
三四郎さんでは、フグが一番美味しいベストな期間だけ営業し、その味を楽しむことができるのだ。
取材の日はお刺身、鍋、シメにおじやまでいただいた。初めてしっかりフグをいただいたのだが、どれもこれも本当に美味しかった。また冬が来たら絶対にこの味を思い出すだろう。
「お客さんは常連さんが半分以上。お孫さんを連れて、3世代で来てくださる方も増えてきた。代々食べてもらえている。」
昨シーズンはコロナの影響で旅行に行けない分、近くで美味しいものを食べようという新規のお客さんもたくさん訪れたという。60周年という節目にコロナで何も出来なかったそうだが、新たな出会いも生まれたのだ。
「継ぐ気は全然なくて、回ってきたらやらなきゃという思いがあった。」
そう笑って話す理恵子さんが手伝い始めたのは12年前のこと。当時は祖母、母、妹の4人でお店を営んでいたそうだ。
「おじいちゃんが板前だった頃より女だけでやっている時代の方が長い。おばあちゃんは81歳で亡くなったけど、80歳までお店に立っていた。稼ぎがどうこうというよりもお店に立つことが生活の一部になっていた。」と話す。
「子どもの頃は、フグの良さって理解できなかった。お寿司屋さんとも違うし、高いけど高級でオシャレって感じでもないし、地味だし。手伝い始めてお客さんに出し始めて、話を聞いたりしているうちにだんだんと良さが分かってきた。」
「継ぐぞってなると苦しくなるので、やれるところまでやってみようという感じ。今10年経ったから、次70周年までやろう。その時にまた考えようって。息子に継いでもらいたいという思いもない。興味があればやってもいいかな。」
美術大学出身の理恵子さんは、お店の夏季休業中には新潟や瀬戸内のトリエンナーレなどのアートイベントのスタッフとして活躍している。
「食とアートどちらにも関われたらいいなという思いから、作品の一部として食事を提供するところがあり、そこで地元のお母さん達と一緒に食事を提供したりしていた。」
夏季休業時、そういったイベントがある時は家族みんなでその土地へ行く。家族一緒に様々なことに触れられるのもまた良い経験となる。
「ここまで長く続いたのはある程度いい加減に、自分のやれるペースでマイペースに続けられたから。頑張ると続かないので頑張らずに続けられることをやっていきたい。お客さんのためっていうのはもちろん考えるけど、自分のためにも。日本人は人のためって想いが強いけど。」と笑って話す。
家族が代々繋いできた大切な場所だからこそ、継ぐとなるといろんな思いが襲いかかってくるだろう。
理恵子さんはうまく自分の歩んできた人生とも繋ぎ合わせながらお店をさらに紡いでいる。
「フグじゃない時期に他にも何かできるかも。」と話す理恵子さん。新しい出会いはまだまだありそうだ。
これからも好きなことと共に、自分のペースで。