生きる場所
中村 さとえさん
移住者
今回取材させていただいたのは、中村さとえさん。
以前取材させていただいたラーメンやんぐさんで働き、毎週木曜日には喫茶やんぐを担当している。
さとえさんが静岡県東部に引っ越して来たのは3年ほど前のこと。
「出身は群馬でその後大学で茨城へ、結婚を機に浜松、今は静岡県東部。どこが1番好きとかはなくて、全部同じくらい好き。慣れた場所を出て生活が変わっても楽しいことが分かったから、移動は全然苦じゃないけれど、それは自分の居場所を見つけられたからだと思う。東部に来てやんぐと出会えたから今すごく幸せ。」
浜松に住んでいた時、“手打ち蕎麦naru”というお蕎麦屋さんで働いていたさとえさん。
そこでの日々が、今も飲食に関わり続けるさとえさんの基盤となっている。
「働いていた当時も今も、naruはとにかく私の憧れ。お蕎麦も一品料理もスイーツもどれもとても美味しくて繊細で。置かれている小物ひとつをとっても可愛い。スタッフはお揃いのエプロンにお揃いのコンバース。店主のゴリさんがセレクトした音楽とお蕎麦を打つ音が心地よく響く店内は、優しくてあたたかくて清潔感があって居心地が良い。妥協なんて一切ない。ゴリさんのこだわりと愛情がたくさん詰まっていて、とにかくかっこよかった。」
何事も妥協なくやるということは簡単なことではない。それでもその大変さを感じさせることなく、お店で過ごしてくれるお客様にとってはとても居心地の良い場所となっている。こう聞くと当たり前のようだが、日々繰り返される慌ただしさの中でそれを実現していくにはかなりの努力が必要となる。
「naruで働く自分が好きだったし誇りだった。学びをたくさんいただいて、刺激的な日々が何より楽しくて。“あ、私接客も好きなんだなぁ”って気が付いて。東部へと住む場所が変わっても心惹かれる場所で働きたかった。」
そうして探しているうちにやんぐと出会ったさとえさん。お店の雰囲気はもちろん店主のテツさんが持つパワーにも惹かれたそうだ。
「こだわりがたくさん詰まったお店はあたたかくて、心地のよい音楽を聴きながらいただく美味しいラーメン。あのときはやんぐとnaruが重なった。お店の空気感もそうだしテツさんのセンスもそうだし、尊敬できる部分がたくさんあって。ここだったら自分の居場所が見つかるかもしれない、この人のもとで働けたら刺激的で学びもあって楽しいだろうなとわくわくした。1度目2度目と積極的に話しかけて、3度目お店を訪れたときにテツさんの方からスタッフに誘ってくださって、すごく嬉しかったのを覚えてる。」
喫茶やんぐが始まったのも、店主のテツさんとの何気ない会話からだった。
最初はコーヒースタンド、プリンのテイクアウトから始まり、今では毎週木曜日が喫茶やんぐの日となり、店内で季節に合わせたスイーツを楽しむことができる。
「やんぐで働き始めて半年くらいでスタートしている。スタッフに自分のお店を任せるってきっと勇気のいることで、信頼してくれてるってことだから素直に嬉しかった。テツさんはスタッフのことよく見てくれてるし、できることを見つけて伸ばしてくれる。ゴリさんもそうだったけれど、やりたいことを応援してくれて味方になってくれる店主ってそうはいないと思うから、すごく恵まれている。」
喫茶やんぐは、毎週楽しみにしてくれている常連さんも多く、ゆったりとした時間が流れる。さとえさんは常連さんにも初めましての方にも分け隔てなく気さくに声をかけていく。
「私にとってテツさんとの会話がやんぐで働くきっかけとなったように、喫茶やんぐで過ごす時間や交わした会話がお客さんにとって大切な何かに繋がっていたら嬉しいと思う。スイーツだけじゃなくて、雰囲気とかここで過ごす時間とか、わたしと話したこととか全部込みで喫茶やんぐを好きになってもらえたら嬉しい。」
喫茶やんぐにさとえさんがセレクトした本が並ぶようになったのも、待ち時間さえも素敵な時間を過ごしてほしいというさとえさんの想いからだ。単純に“自分が本を好きだから”ではなく、ひとつひとつのおもてなし全てが来てくれた方に向けられているもの。どんどん常連さんが増えていく理由がよく分かる。
高校、大学では美術を学んできたさとえさん。
「いろんなものに触れて、見て、作ってきたし、今はそれを活かして自分なりの表現をしている。年が一周し、また同じ季節が来ても、前とは違う盛り付けを意識することで、引き出したい魅力に変化を付ける。そんなところがわたし自身面白いし、来てくれた方に感じてもらえたら嬉しい。わたしの中でものづくりとスイーツは繋がっている。」
最初はシンプルなプリンとコーヒーから始まった喫茶やんぐだが、今では毎回変わるさとえさんの美しい盛り付けも訪れる人の楽しみの一つになっている。
最近では、さとえさんの愛犬コジコジも喫茶やんぐの看板犬として訪れた方達を癒している。コジコジがいることで生まれるお客さん同士の会話もあって、コジコジがいてくれるおかげでいつにも増して喫茶に優しい空気が流れている。
「これからもたくさんの人が来てくれるっていうよりも、喫茶を好きで来てくれる人のためにあたたかくてアットホームな喫茶でありたい。」
さとえさんにとっても、来てくださる方にとっても大切な居場所となっているのが喫茶やんぐだと思った。わたし自身も喫茶やんぐで過ごす穏やかで優しい時間がとても好きだし、これからも訪れる人に大切にされる場所となることだろうと感じている。
「変化できる場所で表現しながら生きていくのが好きなのかも。naruで過ごした時間もやんぐで過ごす時間も私の中でかけがえのないものとなっている。」と笑って話すさとえさん。
絵やスイーツ、今後何に表現方法が変わったとしてもさとえさんの周りにはいつも柔らかな空気が流れるだろう。これからも誰かにとって心地の良い居場所を作り続け、それがさとえさんにとっても大切な居場所となっていくのだと思った。