変化を進化に
宮本 和彦さん
シェフ
フランス料理と聞けば「特別な日」「マナーが心配」「高い」そんなイメージを持つ人は少なくないだろう。
わたしもそんなことを思う一人だった。
次の取材はフランス料理のシェフで、ランチコースをいただいてからお話を伺うと聞かされた時、フランス料理に慣れていないわたしは正直、楽しみより緊張が勝っていた。
当日、ドキドキしながら扉を開くと、まず笑顔で迎えてくれたのは奥さんの宮本 綾乃さん。
そして厨房からひょこっとシェフの和彦さんも気さくに挨拶してくださった。
思っていたフランス料理屋さんのイメージとは違う。穏やかな店内の空気感に緊張が一気に和らいだ。
お話の前に、まずはランチコースをいただくことに。
本当に何を食べても美味しい。チーズ嫌いなわたしがチーズを美味しく食べられて驚いたほどだ。
こんなに美味しくてはさぞ値段もするのだろうとふとメニュー板を見上げてまた驚いた。抱いていたイメージとは違うリーズナブルな価格が並ぶ。
「フランス料理は高いイメージがあるが、フランスで食べる時は日本のように高くない。フランス人がフランス料理を食べる感覚で気軽に食べてもらえるようカジュアルさをキープしたい。」
そんなシェフの想いからあえて高価なものを使って価値を上げることはせず、それでかつ美味しいフランス料理を出している。
「ここに辿り着いたのも流れに身を任せただけ。タイミングと運が良い。」と話すシェフの和彦さん。
幼い頃、親戚がフランス料理屋さんをやっていたことをきっかけにフランス料理の道へ進む。他のジャンルに道を外れることなくフランス料理一本。なんとなくですよという口ぶりでさらっと話すシェフだが、あの美味しい料理をいただいた後だからこそ、シェフの料理に対する熱い想いは内に秘めているものがあるのだと分かる。
CINQ5としてお店をスタートさせる前、別の名前でもお店をやっていたが、なかなか自分達らしさを出すことができずに悩んだ時期もあったという。
シェフの出身地である熊本の震災を受け、「自分たちでやりたいことをやりたい。」という気持ちが強くなったのをきっかけに店舗を改装・改名。
2016年にCINQ5として新たなスタートを切った。
「それから流れが変わった。」と綾乃さん。
自分達のやりたいことが明確に出せるようになり、三島という街で自分たちと感覚が合う人達との繋がりもどんどんと増え、気軽に来てくれる人も増えていった。
求めていた「誰かの家でご飯を食べているかのような、ホームパーティーのようなお店」に近づいていったことが嬉しいと話す。
厨房も見える位置にあり、常連さんとの会話もできる距離。お客さんの反応も感じ取れる。
「次来た時はこれを食べます!」と次のことを話してくれることがとても嬉しいと話す。
CINQ5の魅力はそれだけではない。
「いつ行っても新しい。同じものを頼んでも付け合わせが変わっていたり、でもそれがまた美味しくて毎回違う楽しみがある。」と常連さん。
世の流れに踊らされないブレない軸。そして、新たな美味しさもプラスして提供することを忘れない探究心。
変わらない部分と変わる部分、どちらも良い部分を逃すことなく進化を止めない。そんな場所なのだ。
「今後はよりアットホームに、CINQ5を通じて人が出逢っていくようなそんな場所にしていきたい。」という綾乃さん。
「年齢に伴ってキッチンが似合わなくなったら定食屋とか居酒屋になるかも。」と笑って話すシェフ。
人に対する想いと飾らない人柄もまたCINQ5の魅力だろう。
変わらぬ美味しさの中で、新たな美味しさとも出会える場所。
和やかな雰囲気の中でいただくフランス料理の美味しさがもう忘れられない。