寄り添う糧

#6

田中 智大さん

花屋

今回は、倉庫だった建物を改装し、4年前にオープンしたお花屋さん「APPLE SEED FLOWERS 」さんを訪れた。

この場所でお店がスタートしたのは4年ほど前。店主の田中 智大さん(通称トモさん)がお花と観葉植物を、奥さんの千佳(ちか)さんがキャンドルを製作し、2人でお店を営んでいる。

「ここは改装する前まで、近所の子ども達の間でお化け屋敷って言われていたみたい。」と笑って話すお二人。今はもうお化け屋敷と言われた面影はなく、無骨さと柔らかさが上手く融合した素敵なお店となっている。

「中は階段と2階部分があっただけで四角い部屋だった。あとは全部自分で作った。」とさらっと話す智大さんに驚く。かっこいいカウンターテーブルやガラス窓のあるドア、何から何まで大工さんに相談しつつ、2ヶ月ほどで完成させたそうだ。大変だったそうだが、自分で作ったからこそ、スタート時から自分らしさと愛着溢れる店舗となった。

「30歳で自分の店を出すって決めて5年間は修行。」

キャンドル作家である奥さんの千佳さんとの出会いをきっかけに自分のお店を出すという夢がぐっと強まった。高校卒業後にお世話になったお花屋さんに再度入社し、フラワーアレンジメントのコンテストに出場したり、イベントを企画・運営したりと様々な力をつけ、現在の店舗をオープンさせた。

智大さんは農業高校出身。現在は、母校で外部講師として生徒にフラワーアレンジメントを教える活動もしている。智大さんが生徒にアレンジメントを教え、高齢者施設で生徒が智大さんから教わったアレンジを教える。

「ちゃんと作品として完成しているかは分からないけど、ものより体験。交流するきっかけがフラワーアレンジメントになっているのは嬉しい。」

花を通じて普段関わり合うことのない人々が交流し、互いに学び合う。その活動の大事な部分を智大さんが講師として担っている。生徒たちにとっても、普段先生ではない実際に花屋を営む人から指導してもらえることはとても貴重なものだろう。

「特別支援学校では、卒業時に生徒が親御さんへプレゼントするアレンジメントの製作も教えている。発想が面白くて、子ども達から学ぶことも多い。」と話す。

思いのままに花に触れる楽しさ、自分で作ったもので誰かに想いを届けることへの喜びを伝えられるのもまた素敵な活動だと感じた。

奥さんの千佳さんのキャンドルもまた素敵だ。独学で10年以上キャンドルを製作しており、飾る楽しみと灯す楽しみ、どちらも楽しめるとても可愛いキャンドルが並ぶ。「キャンドルの型取りは、学生卒業後に勤めた歯科助手の経験が活きている。」と笑って話す千佳さん。

型から製作をし、お客さんの希望や季節などに応じてロウの種類を使い分ける。現在は、月に数回ワークショップも開催しており、見る・灯すのみならず作る楽しさも提供しているそうだ。

そんな夫婦二人で営むAPPLE SEED FLOWERSさんは「花とキャンドルのある暮らし」をコンセプトに切り花をメインに観葉植物とキャンドルが並ぶ店舗となった。

「コロナ禍でお花を家に飾る人が増えた。自分でお花を選ぶ楽しさが良いからこそ、いつでもお花がたくさんある状態にしている。」と話す。お花の冷蔵庫は置いておらず、部屋を冷やして切り花を管理している。ガラス越しではなく、そのままの姿を見て選んでもらえる。

近くのスーパーや郵便局に来たついでに「ここを覗くのが楽しみなんだよ。」と言ってくださるお客さんもいるようだ。本当にたくさん並んでいて、つい立ち寄ってしまうワクワクする気持ちがとてもよく分かる。

「2店舗目を作りたいとか、こうしてもっと稼ぎたいとかいう意欲は0で、2人でできる範囲のことをやっていきたい。この場所もとても気に入っているし。お金はあると使っちゃうしね。」と笑いながら話すお二人。自分たちで作り上げたこの場所で、二人が生み出すものが並ぶAPPLE SEED FLOWERS。

「花の種類でブームはあるけど、花屋は一生なくならない仕事。昔から花を飾る文化の中で生きてきている。日本でも海外でも。」

わたし達の暮らしの中、特に人生の節目、お祝い、誰かを想う瞬間にはいつも花がある。意識して自分の人生を思い返してみると本当にたくさんの花と共に生きてきている。それは最後、自分の命が終わる時も、わたし達は花に囲まれている。花は普段の生活にプラスをもたらす存在でもあり、わたし達の人生にとってかかせない大きな存在でもあるのだ。

花を売るということは誰かの想い、そして人生に寄り添うこと。
お二人が生み出すものに、これからもたくさんの人が満たされていくだろう。

photo & text :宮﨑 美咲

APPLE SEED FLOWERS instagram

住所:〒410-0022 静岡県沼津市大岡1072-3

定休日:要確認(instagramから)